8 July, 2014
Part 2
ミネイロンの惨劇から数時間後
試合終了後、たんたんとしたミネイロンからの帰り道。青空から夜空に変わったパンプーリャ湖畔は数時間前までお祭りだったのが嘘のような空虚感。今夜のことは記憶から消し去りたいというより、何もなかったかのような雰囲気。ブラジルが優勝すると虚勢を張りながら、心のどこかであるいははっきりとドイツには勝てないと思っていたブラジリアンは多い。とは言えここまで打ちのめされる覚悟もしてなければ経験もないからどう反応したらいいかもわからないのが正直なとこだろう。
このまま家に帰る気分にもならず一人でセントロのパーティーエリアへ繰り出す。試合後のストリートには人が溢れかえり爆音が聞こえてくるけど、いままでの街にはあった底抜けのエネルギーは感じられない。
ジャーマニーもさすがに試合前のようなチャントの大合唱は自粛している。一流のサポーターは相手に敬意を忘れない。問題を起こすのは一部の人で多くの本当にサッカーを心から愛するサポーターはフレンドリーな交流を好む。
日頃の鬱憤を当たり散らすように騒ぐ輩はいつでもどこにでもいる。今夜は特にブラジリアン同士の喧嘩が多くそれを制止する警官隊は忙しそう。小競り合いは普段から荒れた国ではよくあることで自分が見た範囲では特別な様子はなかった。特別というのは、車がひっくり返えり、炎があがり、ショーウィンドウが割られたようなスタンレーカップの時にバンクーバーで経験したような暴動をさしている。
勘違いする人が出てこないように警告しておくと、同じ景色を見ていても時間・場所・その人の経験により見える世界は変わる。数分前に恋人たちが熱い抱擁をしていた場所で、殴り合いの喧嘩が始まったりする。曲がり角を一つ曲がるだけで、扉を一つ潜るだけで世界が変わる。それが夜の街。慣れない観光客が無防備に踏み入るには危険。かといってブラジルでナイトライフを楽しまないのは海へ来て泳がないぐらいもったいない。”旅とは海である“でも書いたようにその人のレベルに応じた場所で泳げるところで泳げばいい。
この夜はドイツサポーターともフレンドリーに話せるブラジレイロやアトレチコ・ミネイロのサポーターたちに誘われて惨劇の夜を過ごした。彼女たちは1-7を変わるきっかけにできる度量がある。屈辱を乗り越えここからもう一度強くなろうとしている。ワールドカップ過去最多優勝国の証である5つの星が輝いている。それでもふとした瞬間に惨劇を思い出したのかショックを垣間見る。深夜を過ぎても盛り上がりもそこそこに、明日からはもとの生活に戻るだけ。
ブラジルが大敗しても、ワールドカップで地元のブラジリアンがくれたホスピタリティやエンターテイメントは色褪せない。これを糧に最強のブラジルが帰ってくることをみんな期待している。
今大会は決勝でメッシが5人抜でもしない限り、いやそれでもなお優勝チームでもなくドイツの大勝でもなくブラジルの大敗が記録に残る大会になるだろう。アフリカ、ドイツ大会と違い、最初から最後までブラジルが主役だった。
著者:Ken Utsumi #u23ken
『世界23周の旅』3周目中。未来の働き方・生き方に挑戦する。24歳のときトロントで起業。留学&就活を支援。未来法人U23代表CEO兼デザイナー。神戸生まれ、サッカー好き、旅人。