グループリーグC組日本対コロンビア戦。日本この試合はクイアバで開催されるワールドカップの最後の試合。日本代表の最期の試合にはしたくない。
日本の予選グループ自力突破の可能性は消滅し、決勝ラウンドに進むためにはいくつかの奇跡を起こさなければいけない。強豪コロンビアに2点差以上で勝ち、同時刻に行われるコートジボワールがギリシャと引き分けるか負けると得失点差でC組2位を争うことになる。
ホームステイでブラジル料理を囲み、家族総出で決戦の地パンタナール・アリーナへ向かう。スタジアムへ向かう途中の道では地元の子供たちやおばあちゃんが笑顔で手を振っている。この穏やかな時間がいつまでも続けばと思う。
デイゲームの今日は空の青とスタジアムの白と芝生の緑が映える。コロンビアとブラジルのサポーターの黄色のユニフォームの染まったスタンド。ラテンの勢いにも圧倒されこの大会はじめてのアウェイの雰囲気を味わう。
とはいえどコロンビアサポーターは予選通過を決め格下の日本を相手に余裕のお祭り模様。スタジアムに入りきらないサポーターが遠征し、勝利を疑うものはおらず自信に満ちあふれ大合唱のチャントをスタジアムに響き渡らせる。勝ち点以外にも日本にないものを持つ彼らを羨望のまなざしで見守るしかない自分がいた。
一方、瀬戸際の日本側は、わずかな熱いサポーターを除き、アウェイの雰囲気に怖じ気づいたのか、あるいは観光のことで頭がいっぱいなのか、すでに敗退を受け入れたかのようにもとれる勝気のなさ。奇跡が起こりそうな空気はなくサポーターの試合への影響力は完敗。まだ終わっていないと言い聞かせる。
試合前のサポーター交流はワールドカップの醍醐味。手招きをするコロンビアーナに誘われカメラに向かっていっしょにダンスを踊る。赤青黄色のミサンガをもらったら日の丸ハチマキのお返しでフェアプレイを誓う。コロンビアから家族で応援に来た親子の片言の英語に片言のスペイン語で異文化コミュニケーションを試みる。ただし、行列ができるほどせがまれる記念撮影に応じれるのも今だけ。試合がはじまったら真剣勝負。
16:00キックオフ。後がない日本は主力温存のコロンビアに対して背水の陣で神風の如く捨て身の攻撃をしかける。しかし前半早々に不用意なファールでPKを献上し先制を許す。激しく振ったコーラを開けた炭酸のようにスタジアムに歓声が溢れ出す。前半終了直前、本田圭佑の絶妙のパスにあわせた岡崎慎司のヘディングシュートがゴールネットを揺らす。炭酸が抜けたコーラのようにコロンビアサポーターを静める同点ゴール。見たかったのはこれだ。サムライの消えかけていた命のローソクに灯をともし奇跡が起きる予感が芽生える。それはかつて同じく厳しい条件をつきつけられた南アフリカ大会ブラジル戦、玉田圭司のゴールに一瞬の夢を見た興奮と重なった。
皮肉にもその後の展開まで再現され束の間の夢に終わる。後半、若きエース、ハメス・ロゴリゲスが登場するとコロンビアのショータイム。立て続けに追加点を奪われ、挙げ句の果てにはワールドカップ最年長記録を更新する43歳のGKモンドラゴンを交代でピッチに迎える。ワールドカップの公式戦にフレンドリーマッチようなスタンディングオベーションを許す屈辱に耐えなければいけなかった。
4-1完敗。通算成績1分2敗グループリーグ敗退。
敗退を告げられた帰り道にカメラを向けられて笑顔が作れるほど大人になれなかった。この結果を心の底から悔しいと思う日本人がどれだけいるか。選手も協会もサポーターもこの悔しさを忘れず上を目指して練習を続ければ強くなる。
客観的に見ると妥当な結果。しかしワールドカップ優勝と言う夢を主観的に見ている。親が子の可能性を信じ良い時は褒め悪い時は叱らないと成長しない。スペインやイタリアですらグループリーグ敗退と慰めてたら前に進まない。他人と比べるのではなく、自分の中でベストを尽くせたかを問うべき。
闘っている最中に批判をして足を引っ張り、終わったら健闘を讃えるメディアもサポーターも逆。この悔しさを忘れる前に反省会をしよう。
現地サポーターのマナーは世界一、応援グッズとコスプレはトップクラスまで来た。勝利への貢献度や渇望は世界最低レベル。自分も含め地球の裏側まで応援に来るガッツがある日本のサポーターもう一歩前へ進めたい。
個人レベルでは選手も審判もサポーターも世界の最前線で戦える日本人はいる。しかしチーム全体としてワールドカップ本大会で戦える強さはない。協会とサポーターは幻想をみている。日本の弱さを知ることは強くなるための第一歩。
調子が良いときのパフォーマンスならベスト4ぐらいの力がある。だがここ一番で力がだせない。つまりそれは実力が足りないということ。まぐれのベスト8ぐらいが限界だろう。頑張っていないわけではないけど甘い。気持ちで負けている。ドイツの時から同じことを言い続けている。変わらなければ4年後もまた同じことの繰り返し。この数試合だけでなく4年間の検証をして変わらなければいけない。
選手も協会もメディアもサポーターも島国で井の中の蛙にならず海外に出て世界を知ることが一つの解。
今回の代表チームの一番の功績はそれまで笑のネタにしかならなかった日本のワールドカップ優勝という夢を見させてくれたこと。ワールドカップがなけれぼパスポートも持ってなかったようなサポーターをブラジルに連れてきて日本人のグローバル化へ前へ進めた功績は大きい。ワールドカップはこれで終わりではない。むしろ決勝ラウンドからが本番。強豪国の試合を観て勉強し、4年に一度のパーティーに酔いしれよう。
なんでサッカーにそんなに熱くなれるのか。それはオーガズムを体験したことがない人にいくら説明してもわからない。日本代表が優勝しても自分の人生は何も変わりないと言う人がいる。その人にとってはそうかもしれない。ワールドカップで未来が変わった奴らはいくらでもいる。
著者:Ken Utsumi #u23ken
『世界23周の旅』3周目中。未来の働き方・生き方に挑戦する。24歳のときトロントで起業。留学&就活を支援。未来法人U23代表CEO兼デザイナー。神戸生まれ、サッカー好き、旅人。






















レシフェからバスで南に5時間ほど下りワールドカップC組グループリーグ予選第二試合、日本対ギリシャ戦のナタールへ移動してきた。初戦にコートジボワールに敗れた日本代表は、二試合目にして早くも負けたらグループリーグ敗退を宣告される崖っぷちに立たされる。レシフェでのドログバの悪夢を忘れ、ナタールでワールドカップ優勝の夢をを思い出さなければいけない。
ワールドカップに出場できない国の旅人と話をすると、母国を応援しワールドカップ優勝を叫び熱狂できることがなんて恵まれてることなんだとしみじみ思う。この熱狂をリオデジャネイロまで絶やさないためにも、日本はゴミ拾いをしにきたんじゃないこと世界に伝えるためにも、今夜のギリシャ戦は絶対に負けられない。
日本ボールでキックオフ。日本代表は香川真司をスタメンから外し、大久保嘉人が先発に起用される。目立ったシーンもなく、前半終盤にギリシャが退場者を出し数的優位に立つ日本。イエローカードに湧く日本サポーターの思惑とは裏腹に、ただでさえ守りの堅いギリシャは10人になり徹底防戦を固める展開に。後半、長谷部誠out遠藤保仁in。続けて10番香川真司を投入。日本のゴール裏からお約束のコール。ドログバが投入されたときのような響めきはない。流れは変わらず、お互いゴールの予感もなくただ時間だけが過ぎる。日本代表の応援のような、リスクを冒さずメリハリのない単調なオフェンス。やっと変わったと思えば不慣れなパワープレー。一人少ないギリシャ相手にスコアレスドローのまま試合終了。
アレーナス・ダス・ドゥーナスの観客席には、地球の裏側から駆けつけたサムライブルーのサポーターとフェイスペイントやハチマキをした日本びいきのブラジリアンで埋めつくされていた。
次に、相手が危険なプレーや時間稼ぎをしていたらブーイングでプレッシャーをかける。試合後に批判を書くのは得意だけどその場ですぐスタジアムで声を出してブーイングというのができない。どのタイミングですればよいか分からなければ今回に限り日本を応援してくれているブラジル人が教えてくれるのでそこに重ねればいい。ブラジル人があれだけブーイングしてくれてるのに日本人サポーターは黙って見ていたり写真を撮ってる場合ではない。我慢するのはそこではない。声を出すことを恐れてはいけない。
日本のサポーターの個性は世界でも際立っている。敗戦でも試合終了後にゴミ拾いする行為は見えている世界の違いで賛否両論あれど、日本人の素養、品の高さを世界に伝えている。応援にゴミ袋を使いスタンドを青く染め、雨が振ったら合羽にもなり、最後はゴミ拾いをして帰るなんて天才だ。ローコストでハイリターンを生みクリエイティビティに溢れている。





















スポンサーの都合で試合キックオフは 22:00。治安の悪さだけが一人歩きするブラジルだが、一人でスタジアムに向かうサムライにサッカー王国の人々は温かい。ホストファミリーが近くのバス停まで見送ってくれるそのほんの数分にも、通りすがりの人、レストランで、車の中からから日本コールの嵐。ポルトガル語が話せなくてもこの姿を見ればスタジアムに行きたいのは一目瞭然、道を聞けばみんな親切に助けてくれる。スタジアム周辺のバスターミナルからスタジアムへ向かうバスでも日本コールの大合唱。
朝から高鳴りっぱなしの気持ちはスタジアムに近づくに連れて最高潮に達する。日本を発ってから目にしてなかった少し懐かしいサムライブルーのユニフォームやコスチュームの日本人サポーターの姿にワールドカップモードに切り替わる。日本より海外で会う回数の方が多いサポーター仲間と合流し久しぶりに対面で日本語を話しホームのような雰囲気で過ごす。メディアの写真撮影や取材の対応はほどほどに、試合開始前までハチマキを配ったりブラジル人や他国のサポーターとの交流をしばし楽しむ。そして、運命のキックオフ。
エース本田圭佑の復活を告げる美しいミドルシュートで日本が先制ゴール。怪我から復帰した内田篤人の気迫溢れディフェンス、守護神GK川島永治のファインセーブでゴールを死守する。日本の10番香川真司の不調は気になるが、この時点で日本の勝利を疑うものがどれだけいただろう。後半、勝負のコートジボワールがかつての英雄ドログバ投入。コートジボワールはドログバという百獣の王が率いる獣の集団に生まれ変わったのか、それとも日本が恐怖に戦く羊の群れに成り果てたのか、あるいはその両方か。ターニングポイントだった。この選手交代からわずか数分で立て続けに同点、逆転のゴールを許し勝負は決した。ドログバがゴールを奪った訳ではない。しかし彼の存在がゲームの流れ変えたのは誰の目にも明らかだった。ディディエ・ドログバ。たった一人でこれほどまでに影響力を与える選手がかつてどれだけいただろうか。内戦すら止めた男はしばらく日本人の脳裏から離れないだろう。
初戦は2-1で負けた。得点差以上にコートジボワールは強かった。試合に負けたから悔しいのではない。失敗を恐れ4年間やろうとしてきたことを見失い何もできなかったのが悔しい。試合終了後、日本サポーターの心を代弁するかのように深夜の空からは大粒の涙が激しく降り注いでいた。沈む気持ちを励ましてくれたのは、帰宅途中に友達になりホームステイ先まで車で送ってくれた陽気なブラジリアンだった。現地で観戦する人たちがこれからツイートやブログで伝える頃だと思うが、ブラジリアンのフレンドリーさやホスピタリティは目を見張るものがある。治安の悪さばかり先行するがこういう良さをもっと知ってほしい。この話はまた機会があれば語るとし、とにもかくも車に鳴り響くサンバのリズムとともにホームステイ先についた頃には完全に気持ちは切り替わっていた。空の雨も止んでいた。











